第25話 早朝出会ったおじいさん

前回は高松の池にあるシベリア抑留体験者の慰霊像「ひまわり」についてお話しました。

「ひまわり」を撮影した翌朝、いや正確にはその日の深夜に、私は高松の池に出向きました。
夜明けの情景を撮影するために、まだ暗いうちに池のほとりでカメラを構えていました。

午前3時を回った頃でしょうか、暗闇の中、遠くから歌声が響いてきました。
朗々とした調子で唄われているのは、村田英雄の「王将」です。

歌声はだんだんと近づいきて、ついには目の前にその声の主が姿を現しました。
手ぬぐいで頰かぶりをしたおじいさんさんです。
ニコニコしながら歌い続けるその姿は、どう見ても怪しい人です。
おじいさんは、私の存在など気にもとめない様子で、カメラのすぐとなりで体操を始めました。

誰もいない池で謎のおじいさんと二人きりになった私は、なんだか怖くなってきました。
あえて無視して声をかけず、警戒しながら撮影を続けました。
そのうちおじいさんは体操を終え、立ち去ろうとしました。

内心ホッとしていると、去り際におじいさんが一言ポツリと漏らしました。
「俺はシベリア抑留していたんだよなあ…」
私はビックリしました。
そして思わずおじいさんを呼び止めました。
「待って下さい、そのお話、聞かせて下さい!」

シベリア抑留者の慰霊像「ひまわり」を撮影した翌日に、まさか実際に抑留を体験した人にお会いできるとは。
私は暗闇の中、おじいさんにカメラを向けて抑留体験についてインタビューしました。

その日、91歳の誕生日を迎えたというおじいさんは、私が何の目的で撮影するかも問わず、世間話でもするかのように自身の抑留体験を語り出しました。
その話の壮絶さと、それを語るおじいさんの飄々とした語り口は、私に時の経つのを忘れさせました。

1時間近く経ったでしょうか。
おじいさんの話は絶え間なく続き、そのうちに白々と夜が明けてきました。
これは夢なのではないか…。
私はおじいさんとの出会いに小さな奇跡を感じました。

思えばこの映画の撮影では、日々幸運な出会いが続いていましたが、そのうちでも、おじいさんとの出会いは最も印象に残るものでした。
おじいさんの素晴らしい唄と語りを、ぜひ映画館でご覧下さい。

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